ふつうの治療では治りにくい鼻炎症状に抗体療法と呼ばれる最新の治療が注目されています。
ここでは、松根彰志先生が、重症スギ花粉症や難治性副鼻腔炎向けの生物学的製剤(抗体治療薬)を用いた治療法について、わかりやすくご説明します。
鼻炎の原因
鼻や副鼻腔(ちくのうが溜るところ)の不快な症状を引き起こす炎症の原因には、アレルギーや細菌、ウイルス感染などがあります。
鼻炎の中でも最も有名なのが、スギ花粉が原因(抗原といいます)となって鼻の粘膜でアレルギー性炎症を引き起こす花粉症です。花粉症は季節限定のアレルギー性鼻炎ですが、ホコリ(ハウスダスト)中のダニが原因で通年性におこるアレルギー性鼻炎もあります。
アレルギー性鼻炎とは
アレルギー性鼻炎では、原因抗原による鼻粘膜への度重なる攻撃により、原因物質を排除しようとする、過剰な防御反応として、くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの症状を激しく引き起こします。これがアレルギー反応です。
こうした反応は、肥満細胞や好酸球といった細胞を活性化し、最終的にはヒスタミンなどの化学伝達物質が多量に粘膜局所で放出され、その刺激によりつらい症状が引き起こされます。これまでのお薬による治療は、こうしたヒスタミンなどの働きを抑えるものでした。
対症療法的で、古いものですと渇きや眠気などの副作用を引き起こすこともあります。
鼻炎の最新治療法
そこで、現在脚光をあびているのが、以下の2種類の治療法です。
1.舌下免疫療法
舌下免疫療法とはアレルギー性鼻炎の原因物質である、スギ花粉、ダニの抗原物質を舌下錠として毎日投与し、身体が過剰反応を起こさないように慣らしていく(体質改善)の治療法です。5歳以上から可能で、保険診療であり有効性は確実にあります。
スギ花粉症の舌下免疫療法の薬「シダキュア」の場合、治療開始後1週間は、シダキュア2,000JAU を1日1回1錠、2週目以降は、シダキュア5,000JAU を1日1回1錠、舌下に1分間保持した後、飲み込みます。これを毎日3年から4年継続します。
ダニアレルギー性鼻炎向けの舌下免疫療法の薬は「アシテア」(シオノギ製薬)と「ミティキュア」(鳥居薬品)の2種類があり、同じものではありません。どちらもコナヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニの抗原成分を50%ずつ含みますが、1錠に含まれる成分の量が異なります。
2.生物学的製剤(抗体治療薬) その1
肥満細胞や好酸球といった細胞を活性化してアレルギー反応を引き起こすおおもとになっているのは、免疫担当細胞であるリンパ球です。このリンパ球から産生される活性化物質(サイトカイン)や免疫グロブリン(IgE)のはたらきを抑制する抗体を皮下注射する治療方法です。難治性スギ花粉症に対する抗体治療薬「ゾレア」の皮下注射は月に1回で、スギ花粉シーズン中3か月間の使用が保険診療として認められています。
3.生物学的製剤(抗体治療薬) その2
抗体治療薬の皮下注射は、難治性スギ花粉症のみならず、難治性で易再発性の副鼻腔空炎(好酸球性副鼻腔炎)でも、有効で適応のあるものがあります。「デュピクセント」といい、デュピクセントは、慢性副鼻腔炎の炎症を改善し、鼻茸(はなたけ)が小さくなるなどの効果が期待できます。
2週間に1回の皮下注射ですが、糖尿病治療で使われるインスリンのように自宅での自己注射が可能です。
IL-4とIL-13は炎症に深くかかわる
サノフィ資料より引用
まとめ
ゾレアやデュピクセントを使用する抗体治療はどちらも保険診療です。
これら以外にも、現在、いろいろな作用機序の抗体治療薬が臨床試験中で、新しいものが今後出てくる可能性があります。
♦松根彰志先生のプロフィール
日本医科大学医学部 耳鼻咽喉科学 教授
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の研究をし、慢性的副鼻腔炎の外科手術を得意とする医師。日本医科大学武蔵小杉病院耳鼻咽喉科部長も務める。
- 大阪府大阪市出身
- 1984年 鹿児島大学医学部医学科 卒業
- 1988年 鹿児島大学大学院医学研究科 博士課程 修了
- 1988年~1990年米国ピッツバーグ大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 留学
- 2000年 鹿児島大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教授 (2007年より大学院准教授)
- 2011年~日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科 部長(臨床教授)
- 2015年~日本医科大学医学部 耳鼻咽喉科学 教授