第2回:花粉はどのくらいの距離を飛ぶのか
財団法人気象業務支援センター・専任主任技師、気象予報士 村山貢司
日本におけるスギ林の面積はおよそ450万ha、ヒノキ林の面積が250万haにもおよび、日本の総面積の18%がスギとヒノキでおおわれています。スギ花粉症の患者さんがこんなに増加したのは戦後に大量のスギやヒノキが植林され、成長したスギやヒノキが多くの花粉を生産するようになったためです。
東京などの大都市の周辺にはスギ林やヒノキ林はほとんどありませんが、やっかいなのはスギやヒノキの花粉は非常に遠方まで飛んでいくことです。図―1は晴れて南西の風が5m吹いているときに三浦半島のスギ林から飛び出した花粉が移動する様子を計算したものです。東京湾周辺で花粉が多いのは当然ですが、遠く茨城県や栃木県の北部まで飛んでいます。花粉が遠くに飛ぶためには一度高い所まで上昇する必要があります。私たちは図―2のようにハンググライダーに花粉の観測機をつけて、様々な高さで観測してみました。その結果が図―3です。5日間観測した結果、最も花粉が多くなっていたのは高さが600m付近で、1000m以上の所まで花粉が飛んでいました。花粉が落下する速度は毎秒2cm前後です。計算すると600mの高さにある花粉が地上に落下するまでに水平方向に移動する距離は風速が5mで150km、10mなら300kmにもなります。花粉がなぜこのような高さまで上昇するかには2つの理由があります。もともとスギ林は山に多く、飛び出した時の高さが高いこと、もうひとつは晴れた日には太陽の日射によって上昇気流が発生するためです。このため、太陽が出ていない夜間には上昇気流がないためにあまり高い所まで上昇できません。
図―4は昼間と夜間に分けて、スギ花粉がどのくらいの距離を移動するかを計算したものです。夜間はせいぜい50kmから60kmくらいまでしか飛びませんが、昼間は500km以上移動することがわかります。
周辺にスギやヒノキがない大都市でも遠方から花粉が飛んでくるために、花粉症の症状が出てしまうのです。花粉が遠方まで飛ぶとその間に花粉の表面にはPM2.5などの大気汚染物質が付着することがあります。大気汚染物質が付着した花粉は、花粉症の症状を悪化させる可能性が高いことも指摘されています。
* 村山貢司先生の第3回は、「15年春の花粉飛散」(2月)を予定しております。